「あれ?姫様?」
これは―――とある魔界のとある1日のお話―――。



立ち止まりながらでいいから



太陽が散々と気持がいい日―――というほどではないが、魔界にしては珍しく晴天だった。
そんな魔界にある公園を歩いている人間が一人。
ちなみに公園と言っても小さな噴水や綺麗に整った芝生をイメージしそうだが、魔界の公園はその真逆だ。
木々は荒れ果て、草はジャングルのように生い茂ているかと思えば気味が悪い赤黒や紫色をした牙が生えた花があったりする。
まさしく、公園―――らしきもの?と言う説明がピッタリだった。
そんな公園の中を歩く人間と言うのは、
「んー・・・相変わらず物凄いセンスだなぁ魔界って・・・」
悪魔になりかけた勇者、アルマースだ。
「姫様、何も新婚旅行に魔界を選らばなくてもいいのに・・・。そりゃ、マオやベリルさん達にまた会えたのは嬉しいけど・・・」
一人歩きながらぶつぶつ呟くアルマース。
「だけどマオの改造研究の手伝いをさせられるのは嫌なんだよなぁ・・・」
ふぅ。とため息をつくアルマース。先ほど、マオに無理矢理手伝いをさせられそうになったが逃げてきたのだ。
浮かない顔でトボトボと歩いていたアルマースは、ふとベンチに座っている人影を見た。その人影というのは―――

「あれ?姫様?」

そう、アルマースの妻・・・と言っていいかどうかわからないが、とても大切で大好きな姫様――サファイア張本人だった。



「・・・アルマースか。」
アルマースの声に反応し、サファイアが顔を上げた。
「なっ、なにか元気がないですね?どうしたんですか?」
サファイアの表情を見て心配になるアルマース。それほどにも、普段の元気な表情とは正反対だったのだ。
「・・・のぅ・・・アルマール・・・ワシは・・・ワシはいったい何者なんじゃろうな?」
「へっ・・・?」
突拍子もないサファイアの質問にさすがのアルマースもどう反応していいのかわからない。
「えっと・・・姫様?」
「いや・・・な、ワシは姫じゃ。姫という存在は皆の憧れであり皆の期待に応えなければならん。しかしワシはその正反対なことをしているような気がするのじゃ。」
静かに自分の思いを口にするサファイア。そんな雰囲気のせいでアルマースは口をだせない。
「前にも言ったが、やはり姫というものは大人しく、上品でいるべきだと思うのじゃ。じゃがワシは・・・」
「そっ、そんなことないです!!」
「アルマース・・・?」
アルマースは声を張り上げてサファイアの言葉をさえぎった。なぜなら、アルマースはサファイアがその常識という言葉の意味の鎖によって苦しめられていたことを知っていたから―――。
「姫様は姫様です!たしかに大人しくて上品な姫様もいいかもしれません。実際ボクも姫様と会うまではそうだと思ってました・・・」
サファイアと会う前の自分のことを思い出すアルマース。
「だけどボクは・・・うっ、うまくは言えないんですけど今のままの姫様が好きです。元気で、誰よりも国のみんなや仲間たちのことを思っている姫様のことが。それに・・・それにどんなに強くったってボクが姫様のことを絶対に守ります!」
「・・・・・・アルマース・・・」
なんの迷いもないアルマースの言葉に微笑むサファイア。その表情には、先ほどの落ち込んでいる様子はなかった。
「それに、大人しい姫様なんて姫様じゃないですし・・・」
苦笑するアルマース。しかし、その言葉にサファイアは、
「フム・・・。それは褒め言葉として受け取った方がよいのか?」
「もっ、もちろんです!」
アルマースはサファイアにジロリとにらめつけられ、自分の言った言葉の意味に気がつき慌てて肯定した。しかし、今度は、
「・・・アルマースらしいの。」
「え?」
いきなり微笑みだしたサファイアに驚くアルマース。
「別に深い意味はないのじゃ。気にしなくてもよい。」
「えっ・・・あっ・・・はい・・・?」
疑問が残っているども、とりあえず頷くアルマース。そして、気がついた。



今、ここにはニ人しかいない。



自分と、サファイアだけ。



この場はたったニ人っきりの空間だということに。



とたん、アルマースはドギマギし始めた。先程の態度が嘘のようだ。
「あっ、あのぅ・・・姫様・・・?」
「んっ?なんじゃアルマース?」
「えっと・・・その・・・あの・・・」
「???」
頬染め、なかなか話し出さないアルマースを不思議そうに見つめるサファイア。その表情は彼女が殺戮マっすィーンということを忘れてしまうくらい可愛く無邪気だった。
(・・・・・・)
そんなサファイアを目の前にして一人考え込むアルマース。
(なっ、何を迷っているんだボク!)
そして今度は自問自答し始める。
(ボクと姫様はこうみえてもけっ、結婚した仲なんだ・・・!だっ、だからきっ、キスの一つや二つくらい・・・!)
頬が赤かった顔をさらに赤くしながら考えるアルマース。
そして考えた末、出てきた答えは・・・
「あっ、あの!姫様!」
「ん?だからさっきからなんなのじゃ?いい加減にしないとさすがのワシでも怒るぞ?」
ジッ。とアルマースの目を見据えるサファイア。
そんなサファイアの言葉を聞いて決心したのかアルマースは、さっき考えたことを素直に、

「キッ――」

『キスしていいですか?』と尋ねようとしたのだが、それより先の言葉はでてこなかった。なぜなら、

「みつけたぞ!アルマース!!」
「ス・・・ってえぇ!!?マオ!?」

二人が座っていたベンチの後ろにある茂みの中からいきなりマオが現れたからだ。
「クックック・・・。コブンの分際でこの我から逃げようとするとはいい度胸だなぁ?アルマース?」
「わっ、忘れてた・・・。ボク、マオの改造研究の手伝いから逃げて・・・」
ダラダラと嫌な汗が流れるアルマース。
「なんじゃアルマース。マオ殿の手伝いをしておったのか?」
「えっ、えぇまぁ・・・。だっ、だけど姫様!」
「問答無用だ!さっさと我の手伝いをしろ!」
マオがアルマースの腕を無理矢理つかんで連れていこうとした時、

「マオ!アンタいったいなんてことしてくれたんだい!!」

今度はマオの幼馴染ことラズベリルが現れたのだった。どうやら、マオが現れた茂みの向かいにある木々の間に隠れていたらしい。
「オマエ、なんでこんな所にいるんだ?」
率直にラズベリルに質問するマオ。
「フッ・・・。ボランティアの途中で偶然、姫様を見かけたんだ。何か落ち込んでいるようだったから声をかけようと思ったんだんだけど、その時、勇者が現れてね。そして姫様の近くに寄ったからアタイは声をかけようにもかけられなかったんだよ。」
何故か勝ち誇ったように自分の経緯を語るラズベリル。
しかし、この語りに反応したのはマオではなくアルマースだった。
「べっ、ベリルさん・・・もっ、もしかしてずっとボク達の話を聞いて・・・?」
恐る恐る尋ねるアルマース。
「ん?あぁ。悪いとは思ったんだけど、二人の様子が気になったからつい・・・」
テヘヘと笑うラズベリル。しかしその顔は反省していなかった。それどころか少し顔を赤らめ嬉しそうだった。
「そっ、それじゃあベリルさんはボクが何をしようとしてたのか・・・」
「あぁ!アレだろ?愛情表現の一つ――・・・」
「わぁー!わぁー!わぁー!」
ラズベリルの言葉を慌てて打ち消すアルマース。
「なんのことだ?」
「ワシもよくわからんのじゃが・・・」
状況が呑み込めないマオとサファイアは首をかしげるのであった。



「はぁ・・・疲れた・・・」
ため息をもらすアルマース。
あれから数分間マオとラズベリルは、もはや痴話喧嘩と言っていいほどの口喧嘩をしていた。
内容はおもにアルマースとサファイアの二人っきりの時間を邪魔したか否か、だ。
「我は我の意思に従ったまで!邪魔をした気などこれっぽっちもないわ!」
「いや違うね!アンタがあのときあのタイミングで現れなければアタイは愛情表現の一つ“アレ”がみれたんだ!」
「アレ?アレとはいったいなんだ?」
「あっ、アンタには関係がないことだよ!!」
「なっ、なにぃ〜!?」
「だいたいアンタはいつもいつもタイミングが悪いんだ!」
「フン!盗み聞きするような不良が言うセリフか!」
「アタイのあれは勉強だよ勉強!だから別に盗み聞きじゃないよ!」
開き直るラズベリルを見て、(あぁ・・・。やっぱりベリルさんも悪魔なんだなぁ。)と、のんきに思いながら二人の掛け合いを見ていたアルマース。
実にどうしていいかわからない時間だった。



そして今、
「相変わらず仲がよかったのぅ。マオ殿とベリル殿は。」
「はは・・・。そうですね・・・」
楽しそうにしゃべるサファイア。
そう・・・またもやアルマースとサファイアは二人っきりになっているのだった。
(ベリルさん、気を利かせてボクと姫様を二人きりにしたんだろうけど・・・今のボクには荷が重いよ・・・)
今この場にいない仲間に対して思うアルマース。
しばらくどうしようか悩んでいたアルマースだったが、今度はサファイアが話題をきりだす番だった。
「アルマース、ちとよいか?」
「えっ?あ、なんでしょう姫様?」
アルマースは、自分の横を歩くサファイアを見る。
「ワシはおぬしに救われてばかりじゃな。いくら礼をしてもたりんくらいじゃ。」
「そっ、そんなお礼だなんて・・・!ボクは当たり前のことをしただけですよ。」
「・・・勇者は皆のために・・・か。フム!たしかにそうじゃな!」
「姫様?」
いきなりガッツポーズをしたサファイアを不思議な目でみるアルマース。そして、そんなサファイアはからはいつもと変わらない、
「決めたぞアルマース!ワシはもっと強くなる!自分の心にもどんなに強い敵にも負けぬようにな!」
「えっ、えぇ!?姫様!?それじゃボクの立場というか勇者の立場というか・・・」
サファイアを止めようとするも、その努力は空しく、
「ならばさっそく修行じゃ!小手調べに最初は修羅から行くとするかの!ついて参れアルマース!」
「いっ、いきなり修羅ですかっ?ってまってくださいよ姫様ー!!」
アルマースは慌ててサファイアを追いかけたのだった。



そんな二人の上にある魔界の空は、とても清々しい天気だった―――。
まるで、二人を祝福がするがごとく―――――――――――。




−あとがき−
あっ、アレ?最後ちょい甘で終わらせる気が・・・いつの間にかギャグっぽく・・・!(汗)
久々の小説です。そして共に生きる5題のNo.01の立ち止まりながらでいいから でした。
最初アルサファにする予定はこれっぽっちもなかったのですが、つらつらと書いているうちになんだかそれっぽくなってきたもんでつい・・・(^^;)
『立ち止まりながらでいいから』というのは、個人的にアルマースとサファイアの関係と、二人の思い。とか勝手に思ってます。
この二人、ラブラブなくせして全然進展しませんよね(笑)
そういう意味のと、あとは心の成長の方。
なんだかんだで二人はまだ成長しきってない所とかあるような気がするんですよ。アルマースはともかくサファイアの方はやっぱり他人の考え方に押しつぶされそうな感じとか。
だけど、立ち止まりながらでもいいからゆっくり成長して、ゆっくり自分を理解していこう。という思いをこめて書いてみたのです。
ってうわ!なんか自分、らしくないこと語ってんだ!うっわ!(←
に、しても・・・久々すぎて各キャラの口調とかめっさ忘れてました○| ̄|_
手元にあったディス3の小説をみて確認しながらやったんですが・・・絶対どっか変だ・・・!
そして、最初の頃は「絶対これ短い小説になるよなー。なんとか長くできねぇかな〜・・・」とか考えていたんですが、気がついたらあれよあれよと、どんどん書きたいセリフなどが頭に浮かんできて気がついたら結構な長さに;おっ、恐るべしノリという存在・・・!
そんなこんなで、メインで書くのは初めてなアルサファ小説でした。
ではでは、読んでくださった方ありがとうございます。少しでもお楽しめたならば幸いでございます。





2008/07/05