人には誰しも理想の相手というものがいる。
それは、家族や友達、恋人・・・立場は違えど自分の理想を相手に求める。もしくは、自分の理想の相手を探す。

この物語は―――理想の相手を“求める”のか“探す”のか―――ただ“気づいていない”だけなのか―――
その問題に立ち向かう一人の少女の物語である。



王子様はナニイロ



昼下がり、フーカとデスコはダラダラと過ごしていた。
ヴァルバトーゼにはプリニー教育係としての仕事。フェンリッヒはそのヴァルバトーゼの手伝い。アルティナは天使長フロンに同行し悪魔に愛を伝道しに行っている最中(アルティナの意思なのかどうかは不明)。エミーゼルは打倒アクターレ、魔界大統領になるために猛勉強中。
と、このようにフーカとデスコには特にこれといった仕事がないため気がつけば二人一緒にダラダラと過ごす日々である。デスコにいたってはフーカの傍にいることが仕事であるようなものだが、ヴァルバトーゼ達とは違うタイプの仕事であるためいまいち“働いている”という感じがしない。
そして今日もこのまま何もなく一日が―――と思われたが、青天の霹靂ともいえることが起こった。

「お姉さまには好きな人っているんデスか?」
それは、デスコが何気なく・・・それこそ物のついでのようにフーカに質問したのだ。

―――色恋沙汰の話を。

「・・・は? 好きな人? いきなりどうしたのよデスコ?」
もちろん何故いきなりそのような話になったのかがわからずフーカは首を傾げデスコに質問返しする。
「デスコ、ちょっと気になったのデスよ。お姉さまはよくラヴ話をしますが全部誰かの話でお姉さま自身のラヴ話をしないなーって」
フーカの質問返しを気にせず答えるデスコ。その表情を見る限り、本当にただ単純に気になり質問するに至ったようだ。
「べっ、別にいいじゃない・・・アタシのラヴ話なんて・・・」
しかし対するフーカはデスコと違って言葉を濁し、目をそらす。が、デスコはそれで引く事はなかった。
「駄目デス! デスコはもっとお姉さまのことを知りたいのデス!」
そう言うと、ずいっと身を乗り出し詰め寄るデスコ。そのあまりの真剣さにフーカは観念したらしく、
「・・・好きなヤツっていっても・・・いなかったわよ」
今はなんだか懐かしい学校生活の光景を思い出し、呟く。
「そうだったデスか? デスコはてっきり・・・」
「いいデスコ? ラヴ話が好きだからって理由だけで彼氏がいるとか好きなヤツがいるとは限らないの。よく覚えておきなさい」
「はっ、はいデスお姉さま! 覚えておくデス!」
そして呆気にとられるデスコに言い放ち、デスコはフーカの威厳さに背筋をピンと伸ばし答える。その様子に気を良くしたのかフーカは、
「あとね、これだけは言っておくわ。アタシは好きな人がいなかったんじゃなくてできなかったのよ」
「できなかったの方なんデスか??」
「そうよ」
自信満々に好きな人がいなかった理由について話す。
「学校にいる連中なんてイマイチだったのよ。全然アタシの好みじゃなかったの。だからアタシがそいつらのことを好きになるなんてたとえ地球が滅んでもなかったわ」
フフンと鼻を鳴らして胸を張るフーカ。果たしてそれが自慢になるかどうかは不明だが、デスコには興味の対象だったらしく、
「好み・・・それってつまりお姉さまの理想ってことデスか?!」
再びフーカに詰め寄るデスコ。その瞳は輝いていた。
「理想・・・まぁそうなるわねー。学校のやつらアタシの理想と真逆なんだもん。好きな人をつくれっていうほうが無理だわ・・・」
対するフーカは学校の同級生または下級生のことを思い出したのか、げんなりする。しかしデスコはお構いなしに、
「デスコ、お姉さまの理想のタイプを知りたいデス! 教えてくださいデス!!」
意気揚々とフーカを問いただす。その理由は―――
「べ、別にいいけど・・・。でもそれを聞いてどうするってのよアンタ?」
「それはもちろんデスコがお姉さまの理想そのものになるためデスよ!」
全てお姉さまのために――と恥ずかしげもなく言い放つデスコ。初めてみる人ならば誤解を招くだろう言い方だがフーカはすでに慣れているらしく、
「絶対無理よ。無理。だってアンタ女の子じゃん。なりたいとかそういう以前に根本的なとこを間違ってるわよ」
「でっ、でも・・・やってみなくちゃわからないデス! デスコは少しでもお姉さまの役に立ちたいんデス!」
「・・・はぁ・・・。わかったわよ・・・えっとアタシの理想のタイプは――」
適当にあしらいつつも、デスコの真剣な表情と態度に根負けしたのかフーカは自分の理想について話し始めた。

「まず背が高いこととカッコイイは絶対条件ね。それと優しくて紳士的でアタシの話を聞いてくれる人でアタシが寂しい時に傍にいてくれて・・・作り笑いとかそんなんじゃなくて――・・・本当の本当に心の底から微笑んでくれる人でしょ・・・あとは・・・多分女の子なら誰でも憧れるお姫様抱っこ。これをしてくれたら言うことなしね」

うっとりと自分の理想像を浮かべるフーカ。彼女にとってはきっとひと時の幸せな時間だっただろう。

だが―――それは一人の人物の発言によって終わりを迎えた。

その人物とは―――・・・

「ハッ。ずいぶんとまぁアホな発言だな。ついに頭がいかれたか小娘?」

フーカの理想を鼻で笑う狼族の青年、フェンリッヒだった―――。



「どーゆー意味よフェンリっち! つーか何でここにいんのよ!?」
フェンリッヒの言葉の意味を理解し、怒りを露わにしながら即座に問いただすフーカ。そして何故フェンリッヒがこの場にいるのかというと―――、
「俺はヴァル様の手伝いの最中だ。執務室に書類を運び終えたところお前があまりにも沸いたことを言っているのが聞こえ、それが非常に迷惑なうえ耳障りだ。だからお前を黙らせるため声をかけただけだ」
淡々と話すフェンリッヒ。その表情は実にめんどくさそうだった。
「何よ! アタシはただ自分の理想のタイプを話してただけじゃない! それのどこが悪いっての?!」
「そうデスよフェンリっちさん。お姉さまは悪くないデス!」
フェンリッヒに食って掛かるフーカとデスコ。ちなみにデスコはいつもと同じくフーカの後ろに隠れて応戦している。
「耳障りだ、と言ったんだ。話す話さないの問題じゃない。お前は永久に黙っていろ」
「んなっ?!」
「第一何が理想のタイプだ。挙句の果てにお姫様抱っこだと? アホだアホだとは思っていたがそこまでアホだとはな。実はあのアホターレのヤツにも引けを取らないんじゃないのか?」
フェンリッヒは、フーカを見下しながらニヤニヤと笑みを浮かべる。その言葉に容赦はない。
「っ・・・! よっ・・・よくも乙女の想いを盗み聞きしたあげく、バカにしてくれたわね・・・! 言っとくけどお姫様抱っこは全世界共通の乙女の夢なのよ!」
対するフーカは自分の理想を聞かれていたことやバカにされたことが頭にきたのか、赤面しながらフェンリッヒに反抗する。だがフェンリッヒの言葉は止まらず、
「夢? あぁ本当に夢のまた夢だろうな。たとえお前の理想のタイプとやらが目の前に現れたとしてもお前なんぞ相手にはずがないだろうしな。一生に叶うことがない儚い夢だな」
フーカの発言を軽くあしらう。そんなフェンリッヒの態度に、ついに我慢の限界がきたのかフーカは、
「ムキー!! 覚えておきなさいフェンリっち! アタシは絶対にぜーったいに理想の相手を見つけてフェンリっちにギャフンって言わせてやる!」
人差し指を突き刺しお馴染みのポーズをとりつつフェンリッヒに宣言する。
「・・・ハッ。せいぜい理想の相手とやらを捜し求めて孤軍奮闘することだな。まぁどうせ無駄な努力で終わるんだろうがな」
「どういう意味よ!! だいたいこぐんふんとーって何なのよそれ!?」
フェンリッヒの言葉に怒りを覚えつつも、ポカン・・・として首を傾げるフーカ。そんなフーカの発言にフェンリッヒは、
「・・・理想のやつを追っかけまわす以前に少しは知恵を身につけたらどうだ。バカな女は嫌われぞ?」
やれやれ・・・と呆れつつ、まだ仕事の途中だったことを思い出したのか立ち去って行く。
「おっ、大きなお世話よ―――!!」
立ち去って行くフェンリッヒにフーカは大声で叫ぶが、フェンリッヒからの返答はなかった。その後、再びデスコと二人っきりになったフーカは、
「なんなのよアイツ・・・! ほんっとになんなのよ・・・! 純粋な乙女の理想をバカにして笑って・・・!! 絶対に許さない・・・!」
「おっ、落ち着いてくださいデスお姉さま〜!」
わなわなと震えながら地団太を踏む。そしてそれを止めようとするデスコ。
「これが落ち着いていられるわけないでしょ!?」
「でっ、でもお姉さま? 本当にどうでもいい相手だったら声なんてかけないデスよ? それに最後だってフェンリっちさんはどちらかというと心配してたような気も・・・」
「心配? フェンリっちが? アタシのことを? あのヴァルっちバカが? んなわけないでしょ! アタシを笑うためだけにアイツは声をかけたのよ! きっとそうよ! そうに決まってるわ!!」
デスコの言葉も虚しく、「見てなさいよー!!」と意気込むフーカ。フェンリッヒが自分のことを心配――なんて考えは一瞬の瞬間も思わないようだ。そんなフーカをみてデスコは、
「本当に・・・そうなんデスかね・・・?」
一人小さく呟く。
だがフーカはデスコの呟きに気がつかないまま、
「覚悟しておきなさいフェンリっち! 『参りましたフーカ様』って言わせてやるんだからっ!!」
と、打倒フェンリッヒに向け彼なら絶対に言わないであろう台詞を想像しながら闘志をを燃やしつつ、ほくそ笑むのであった―――。

―――果たしてフェンリッヒがフーカにちょっかいを出した理由はただの気まぐれなのか―――

それとも―――?





−あとがき−
初フェンリッヒ×フーカ小説・・・です。が、ただの会話で終わった・・・!終わってしまった・・・!ラヴなんてどこにもねぇ・・・!(失笑)
ラヴがないから続く――というのもなんだか変な話ですが、これを基準とした話をいくつか想像しているのでラヴっぽさはそちらで―――(待)
この2人は本編で明確な表現がなかったけれど、なんか無意識に互いのこと気になってるんじゃね?と1人思ってたわけなのですが・・・
あとフェンリッヒも後半、何故かヴァル以外で自分のペースを崩されて(言いくるめられて?)の相手がフーカとかね・・・これみてこいつらイケるんじゃね?とニヤニヤしてたわけですが・・・( ω *)
そんなこんなで自分の今後のフェンリッヒ×フーカはラヴ重視というよりかは、よくわからないけど相手が気になる。って感じで書き進めていくか・・・と!
友達以上恋人未満・・・という感じともちょっと違うんですけどこんな感じでいければなーっと・・・
・・・・・・だけど甘々も書いてみたいよーなー・・・でも才能がないので甘々は夢のまた夢だぜ・・・儚いぜ・・・(




2011/04/30