オレ様の傍にいろ



「エトナ、渡しておいた書類全てにサインをしたか?」
ラハールが大きな机に向かいながら同じ部屋にいたエトナに話しかけた。
ここは魔王城の一室であり、そこでラハールは珍しく仕事をしていた。
「はいはい。終わりましたよ〜。というか殿下、これってそもそも殿下の仕事じゃないですか!なんであたしに渡したんですか!?」
そんなラハールの近くで同じく仕事をしていたエトナ。
かなりの量である書類を渡され、なおかつラハールの代わりに仕事をしたエトナはもちろん不機嫌だった。
そんな不機嫌なエトナに気がついているのかいないのか、ラハールはあっけからんと、
「そんなもの簡単ではないか。魔王の仕事だというのならば家来の仕事でもあるということだ。よって、オレ様の家来であるお前はオレ様の代わりに仕事をする権利があるのだ。」
当たり前のように言いはなつラハール。
これにはさすがのエトナも何か言い返すと思いきや、
「・・・・・そうですか。」
怒りを隠しながらポツリと言うエトナ。しかし、怒りの表情の中にはどこか悲しげな面影もあった。
「んじゃ、あたしはこのへんで。」
そして、さっさと部屋からでて行ったのだった・・・。




一人取り残されたラハール。
(・・・・・・さっきのエトナの瞳はいったいなんなのだ・・・?)
先ほどのエトナの態度が気になって仕方がないラハール。
そして、おもむろに机のひきだしを開け始めた。




「もう!ホンットありえない!!なんであたしがあんなクソガキのために働かなきゃなんないのよ!」
部屋からでたエトナは、廊下を歩きながら騒いでいた。
隣には一匹のプリニーがいる。
「でも、エトナ様もエトナ様ッスよ〜。そんなにイヤならなんで手伝ったんスか?」
エトナの怒りに怯えながらも、プリニーが質問した。
普段ならば、それは実に自殺行為なできごとだ。しかし、今日のエトナはどこか違って、
「・・・あたしでもよくわかんないのよ。殿下があんなふうに答えるのだって予想できたのに、変な期待しちゃったしさぁ〜。」
怒っていてもプリニーに八つ当たりをするようなことはなかった。
そして、自分でもよくわからないと言ったエトナ。そんなエトナに声をかける人物がいた。

「エトナさん、それはまさしく愛ですよ。」

丁度廊下を歩いていて、エトナに出くわしたフロンが話しかけてきた。
「あのねぇフロンちゃん。なんでもかんでも愛に変換しちゃうのやめてくんない?殿下じゃなくてもさすがにイヤだわそれ。」
「えー?なんでですか?とってもいいことなのに・・・。」
「そう思ってるのはフロンちゃんだけだって。で、なんであたしが変な期待したのが愛なのよ?」
「簡単ですよ。エトナさんは、ラハールさんに自分の仕事ぶりを認めて欲しかったんですよ。」
「・・・はぁ?」
ガッツポーズをとってエトナに語りかけるフロン。その目は実に燃えている。
反対にエトナは冷めた目でフロンを見ていた。
「あたし、別に殿下に認めて欲しいなんてこれっぽっちも思ってないっつーの。勘違いもほどほどにしてよね。」
「勘違いじゃないですよ〜。それならなんでラハールさんを手伝ったんですか?」
「それは・・・・。」
返答に困るエトナ。それが予想できたのか、フロンはにっこりと微笑み、
「それにラハールさんがエトナさんにお仕事を頼んだのは信頼されてるって証拠ですよ♪」
「・・・それだけは絶対ないわよ。だってあたし殿下の命狙ってるわけだし。」
「そう思ってるのはエトナさんだけですよ。少なくともわたしには信頼されているように見えます。」
再び微笑むフロン。それは実に何の疑いもない無垢な笑顔だった。
「・・・・・。」
そう言われても、いまいち信じることができないエトナ。そんな時、
「エトナ様〜。殿下が呼んでるッスよー。」
ラハールの部屋から出てきた別のプリニーがエトナに話しかけてきた。
「またぁ?ホント勘弁してほしいわ。んじゃフロンちゃんそういうことで。」
「はい。エトナさん、頑張ってくださいね♪」
相変わらず微笑んでいるフロン。自分の心が読まれてそうで嫌だったエトナは、早々と来た道を戻っていったのだった。




「殿下ー。今度はなんのようですか?」
「エトナ、そっちの書類にもサインをしておけ。」
来るなりいきなり仕事を押しつけるラハール。これに対してついにエトナが、
「・・・いい加減にしてください!!なんであたしが殿下の代わりに仕事しなきゃいけないんです!?」
「なっ、何をそんなに怒っておるのだお前は?」
エトナが怒っている理由がわからないラハール。そんなラハールに呆れてエトナは、
「・・・信っじられない。あたしもう家来やめます。前みたく探しにきたって絶対戻りませんから。」
「なっ・・・?!」
「さよなら殿下。」
ギロリとラハールを睨み、部屋から出ようとするエトナ。
「まっ、待てエトナ!」
そんなエトナを慌てて止めようとするラハール。しかしエトナはラハールを無視して歩く。更に慌てたラハールは、おもっきり大きな声で、

「オレ様の傍にいろ!!」

数秒の間。そして―――
「・・・殿下、それって告白ですか?」
先ほどのラハールの言葉に頬を染めて立ち止まったエトナ。そして、ゆっくりとラハールの方を見た。その顔は驚きに満たされていた。
「ち、違うぞ!オレ様はただお前が好き勝手するのが気にくわんだけだ!!」
自分が言った言葉の意味に気がついたラハールが真っ赤になりながら慌てて否定した。
「じゃあ家来に仕事押しつけるようなことしないでくださいよ。」
「お前、何か勘違いしてないか?」
冷静を保って喋ったラハールだったが頬はまだうっすらと赤かった。
「勘違い?勘違いも何も殿下はあたしに仕事を・・・。」
「その書類をよく見てみろ。」
「書類・・・?」
ラハールの言うとおりに、渡された書類をジックリと見るエトナ。
「えっと・・・『なお、この書類は魔王のサインと魔王が信頼する者のサインが必要である』・・・・殿下これって・・・。」
「べっ、別にお前を信頼しているわけではないぞ!フロンやプリニー共が頼りないだけだ!断じてお前を信頼して頼んだわけではないからな!!」
頬を染めて否定したラハール。
「・・・・殿下・・。」
「・・・ふんっ!」
先ほどの怒りが嘘のようにエトナは微笑んでいた。
「それじゃ、さっきまであたしがサインしてた書類も全部・・・?」
「そうだが?」
キョトンとしてエトナを見るラハール。そんなラハールを見てエトナは、
「・・・ぷっ。そういうことなら先に言ってくださいよー殿下。」
「言うも何も、書類の説明を見ればすむことだろうが。まさかお前、何も見ないで適当にサインしていたのか?」
「あははは。ヤダなぁ殿下。そんなはずないじゃないですか〜。」
「ほんとかぁ?」
疑いの目でエトナを見るラハール。そしてエトナは、
「そういうことなら殿下、あたし頑張ってやりますよ。」
とても嬉しそうな笑顔でラハールを見つめたのであった・・・。



「ところで殿下、さっきの言葉のことなんですけど・・・。」
「さっきの言葉だと?」
「ほら。『オレ様の傍にいろ』ってやつ。」
エトナは何気なく質問したのだが、言った張本人であるラハールは湯気がでそうなほど真っ赤に顔を染めた。そして大慌てで、
「あ・・・あれはお前を止めるために言っただけだ!変な勘違いをするなっ!!」
「変な勘違いですか?あたし別に変なこと言ってませんよね?」
「う゛っ・・・・。」
固まるラハール。そんなラハールを見て、クスッ。と笑うエトナ。
「殿下、ホントはあたしがどこかに行っちゃうのがイヤだったんじゃないんですか?だからつい本音がポロリと・・・。」
「んなっ?!」
図星(?)をつかれて赤かった表情をさらに赤く染めたラハール。エトナは、そんなラハールの表情を見れて満足したのか、
「・・・・でも嬉しかったですよ?殿下があたしのこと呼び止めてくれたことが。」
頬を染めてラハールを見るエトナ。その顔は実に嬉しそうだった。ラハールはエトナの普段はみせない可愛らしい表情に戸惑いながらも、
「またプリニー共を連れていかれては困るからな。」
ぶっきらぼうに言ったラハール。それは相変わらずの下手な照れ隠しだったのだが、エトナはわかっていたかのように何も言わずに、
「まっ、そういうことにしといてあげますよー。さっ、殿下。さっさとサインして休みましょうよ。」
楽しそうに書類にサインをし始めたのだった―――――――――。






−あとがき−
初のラハエト小説でしたっ。
おっ、終わり方微妙すぎる・・・!(汗)
初なこともあり、それぞれのキャラの口調が手探り感漂いまくりですねぇ・・・(失笑)
そして魔界に、『信頼する者のサインが必要』なんて書類があるはずがないことに悩みながら書いたのが一番印象に残ってます(待)
ではでは、読んでくださった方ありがとうございます。少しでもお楽しめたならば幸いでございます。





2008/01/29