意地と優しさ  前編



「38.7゜・・・しくじったわ・・・」
自分の部屋のベットに腰かけているエトナ。いつもとは違い、顔が熱っている。そして苦しそうであった。
「エトナ様ー。いくらエトナ様でも風邪にはかなわないッスよー。殿下に事情を話して今日一日でも休んだ方がいいッスよ?」
エトナのために、冷たい氷水と綺麗なタオルを持ってきていたプリニーが言った。表情がわからないと言われているプリニーだが、初めて見る人にでもわかるくらい心配な表情をしていた。
「そんなことできないわよ。殿下にこのこと言ったら絶対「悪魔のくせに風邪など引きおって!お前はオレ様の家来だろうが。この軟弱なやつめ!」って言われるわよ。そんなのあたしのプライドが許さない。」
キリッと目を吊り上げてしゃべるエトナ。
「だけどエトナ様・・・」
「このことは絶対殿下に言わないこと。もちろん殿下以外のやつらにもね。んじゃあたしは殿下の所に行くから。」
ほてった頬をしたままエトナは自分の部屋からでたのだった。



「なんだ?もう終わりか?」
ラハールが腕組みをしなから高らかに勝ち誇っていた。その顔は幼い顔立ちにも関わらず自信と余裕に満ち溢れている。
ここは魔王城にある庭。普段ならば殺風景な庭なのだが今日だけ――この瞬間だけは違った。庭には、多くの悪魔達が生き倒れている。魔物型の悪魔から人型の悪魔などいろいろな悪魔がいて、中には恐怖のあまり気絶している者もいた。

「ハ〜ッハッハッハ!!このオレ様に挑もうなどと大バカなやつらめが!」
得意の高笑いをするラハール。そんなラハールに恐れを知らず話しかけるのは・・・

「でーんかっ。何やっちゃってるんですか。通行の邪魔になってますよ。」
城の中からでてきたエトナは、庭に転がっている悪魔を足でどけながら、ラハールの近くに歩み寄ってきた。
「エトナか。オレ様に挑んできたバカ共を一掃してやったのだ。」
ニヤリと笑ったラハール。
「・・・バカ共・・・ですか。ならあたしも殿下が言うバカ共の中に入っているんですか?」
いつものような表情とは対象的に、真剣な表情でラハールを見つめるエトナ。
「どういう意味だ?」
エトナの言葉の意味がわからないラハール。エトナの影響か、ラハールの声も真剣だった。
「だってあたし殿下の命狙ってるじゃないですか。ならあたしが入っててもおかしくないですよね?」
「それは・・・」
困惑するラハール。
「・・・殿下。この際だからハッキリさせちゃいましょうよ。あたしと殿下、どっちが強いのかを。」
「エトナ?」
ラハールはいきなり雰囲気を変えたエトナに戸惑う。
「さっさとやりましょうよ。それとも殿下、あたしに勝つ自信ないんですか?」
ニヤッと笑い、挑発をするエトナ。
「オレ様がお前に負けるだと?そんなはずがないだろうが!!」
エトナの挑発にのせられラハールは、先ほどの戸惑いはどこえやら戦う気満々だった。
「あたし手加減しませんから、覚悟してくださいよ?」
「お前こそ、オレ様が勝ったら陛下と呼ぶのだ!」

こうして、この魔界最強の二人の戦いが始まった――。



「一文字スラッシュ!」
「アバランシュ!」
ラハールの剣とエトナの槍がぶつかる。剣と槍を間に二人は一瞬相手を見て、すばやく相手との距離をとる。
「これならどうだ!魔王玉!!」
後ろに下がったラハールは、両手を挙げてお得意の魔王玉をつくりエトナの方に向けて放った。
「殿下の攻撃パターンはすでにわかってるんですよ!セクシービーム!」
しかしエトナもエトナで反撃をしてセクシービームで魔王玉を打ち消す。
「・・・ふん。なかなかやるではないか。」
「そういう殿下だって。相変わらずやりますね。」
ニヤッと笑うラハールとエトナ。その顔は実に楽しそうだった。
「これでいっきにかたをつけてやる!」
ラハールはそう言うと、
「メテオインパクト!!」
自分の最終奥義をくりだした。
「ハーハッハッハッハ!これで終わりだ!」
高らかに笑うラハール。

(っ・・・。さすがに今のあたしじゃ殿下のメテオインパクトはキツイかも・・・ね。)
冷や汗をかくエトナ。しかし、勝利を諦めてはなかった。
「くっ・・・!」
翼を広げ、ダルいであろう自分の体を無理やり動かしなんとかメテオインパクトを避けたエトナ。
「はぁ・・はぁ。今度は・・・こっちから行きますよ殿下っ・・・!」
「くそっ・・・!」
急いでで後退するラハール。

「カオスインパ――」
「くっ・・・!」

エトナの最終奥義カオスインパクトががくると思い、構えたラハール。
しかしいつまでたってもそれはこなかった。
「・・・?」
さすがに変だと思ったラハールは、エトナの方を見た。
「・・・エトナ?」
その視線の先には、先ほどまで戦っていたエトナが倒れていた。
「・・・はぁ・・・はぁ・・・・・。」
ラハールの耳に、微かにエトナの苦しそうな声が届く。同時に赤い瞳には、ほてった顔と、辛そうなエトナの表情が映った。
「・・・ふ、ふんっ!そんな芝居、オレ様には通じんぞ!わざとオレ様に心配をかけさせ、その隙に攻撃するつもりだろうがそうは行かん!!」
エトナに駆け寄ろうとした足を止めて立ち止まるラハール。
「だからいい加減、その演技を止めてさっさとオレ様と戦うのだ!」
高らかに言ったラハールだったが、表情はどこか焦っていた。
「・・・・・」
「おい・・・エトナ・・・?」
ラハールの言葉に答えないエトナ。
「・・・・・・いったいどうし―――・・・エトナ!!?」
さすがにおかしいと思ったラハールは、思いきってエトナに近づいた。
「エトナ・・・!」
ラハールが間近で見たエトナの顔はいつもの天真爛漫な顔が嘘のようなくらい苦しそうで静かだった。
それを見た瞬間、ラハールは瞬時にエトナの額に手をあてた。
「・・・!こんな熱でエトナはオレ様と戦っていたのか・・・?」
先ほどの戦いを思い出し、呟くラハール。エトナの症状に気がつかなかった自分に苛立ちと情けさが混じり、表情が曇る。
「・・・とにかくエトナを部屋に・・・!」
ラハールは、エトナを抱えると大急ぎで城の中に戻ったのだった―――。




−後半へ−
えー・・・まさかの続きものです(汗)
書いているうちに、いつの間にか長くなってきてしまって・・・(失笑)
後半はできるだけスッキリまとめるよう努力しまっす・・・!




2008/05/05