罰ゲームの名は告白



「あれ? 殿下にフロンちゃん何やってんの?」
暇潰しに執務室に訪れたエトナはそこで何やら大きな板を囲み、しかめっ面をしたラハールと楽しそうに微笑んでいる2人を見つけた。
「あっ、エトナさん!」
「やっほーフロンちゃん。なんか楽しそうね?」
相変わらずしかめっ面なラハールには目もくれず、フロンに話しかけるエトナ。
「はい! とっても楽しいです!」
「でさぁ〜・・・さっきから気になってたんだけど、ソレ何よ?」
エトナは先ほどからラハールとフロンが囲んでいた“板”を指差してフロンに聞いた。
「あっ、これはですねぇ〜・・・『人生ゲーム』というものらしいです!」
「人生ゲーム??」
「ジェニファーさんが人間界からのお土産ってことで貰ったんですけど、ジェニファーさんが言うには、この真ん中にあるルーレットを回して当たった数だけのマスを進み、最後にお金を一番持ってた人が優勝だそうです。あと、『これで人生のいろはを習ってね』とも言ってました!」
頭の赤いリボンをぴょこん。と、揺らしながら自信満々に答えるフロン。だが説明を聞いたエトナは、
「人生・・・ねぇ・・・? フロンちゃん、それ本気で信じてる? 100%の確率でそれってばウソだと思うけど?」
ジト目でフロンを見るのだった。
「そんなことはありませんよ! 現にこのゲーム、お金のこととか結婚のこととかいろいろと学べますし!」
「いろいろねぇ・・・?」
疑心暗鬼なエトナ。と、そんな時タイミングを見計らったかのように・・・

「なっ、なにぃ!!? 『突風でお金が飛ばされ、50,000払う』だとッ!!?」

ラハールが大声で叫んだのだった―――。



「あらら〜・・・。またですか? ラハールさん?」
「また?」
「そうなんですよ〜エトナさん。ラハールさんってばこのゲームを始めたときから借金だの入院しただので、かなり不幸なマスにばっかり進んじゃって・・・」
「へぇ〜・・・?」
フロン説明を聞いて、ちらりとラハールの方をみるエトナ。そこにはしかめっ面をするどころか、怒りで身体が震えているラハールが。
「・・・殿下〜。何やら散々な目にあってるらしいですね〜? 本当に運がないというか、これから先の殿下の人生はこれみたいにお先真っ暗ってことですかね?」
そして追い討ちをかけるかのごとく、ニヤニヤ笑いながらラハールに話しかけるエトナ。
「なっ・・・?! そんなバカなことがあるか!」
「そうですかね〜? なんだかんだで間違ってない気がしますけど?」
「バカなことも休み休み言え! それよりもエトナ、お前こそどうなんだ?」
「どう・・・って何がです?」
「この人生ゲームとやらのことだ! 案外オレ様より弱かったりしてな?」
ニヤリ。と不適に笑うラハール。
「・・・殿下〜。そのあからさまな挑発、どうにかしたほうがいいですよ? それともあたしがその程度の挑発にでも乗ると思ってるんですか?」
「ぐっ・・・! いっ、いいからお前もやれ! 今すぐこのゲームに参加しろッ!」
痛いところを突かれたラハールは慌てて話題をそらす。そしてすかさずエトナにも参加しろと言い放つ。が、
「あっ、途中参加は無理みたいですよー? エトナさんも参加するのなら最初っから始めないと・・・」
フロンの声によってそれは停止させられた。しかしラハールの諦めの悪さは相当なもので―――
「なっ、ならば最初から始めるぞ! 文句はないなっ!?」
「そんなぁ〜・・・。ずるいです! ラハールさん!」
「そうですよー? 殿下ー。いくらイヤなマスに止まりまくってフロンちゃんに負けそうだからってそれはアウトですってば。というかそもそもあたしは参加する気なんてこれっぽっちもありませんよ」
「オレ様は負けん!!」
「はいはい。とにかくあたしはやりませんからね? あたし、殿下と違って忙しいですし」
元々暇潰しに執務室に現れ、ゲームの観戦をしていたということをすっかり忘れているらしいエトナは早々と執務室を後にしたのだった――――――。



「かっ、勝ちましたぁ〜!!」
「ぐぅ・・・!!」
エトナが執務室を後にしてから1時間後、人生ゲームは終了していた。結果は聞くまでもなくフロンの勝ち・・・である。
「ラハールさん、最後の最後まで不運なマスにばっか止まってましたよねぇ・・・」
「こっ、これは何かの間違いだっ!! フロン、もう一度勝負だ!」
負けたのが嫌なのか、はたまた負けを認めるのが嫌なのか、ラハールは再戦をフロンに申し込む。が、返ってきた答えは意外なもので―――
「えぇ・・・? ん〜・・・それじゃあこうしませんかラハールさん。これから私の言う罰ゲームをクリアしたらもう一度勝負しましょう」
「・・・お前、オレ様は脅迫するつもりか?」
「脅迫なんかじゃないです! れっきとしたルールです! ジェニファーさんが言ってました。『負けた人には罰ゲームがあるのよっ♪』って!!」
「おっ、オレ様はそんな話聞いとらんぞッ?!」
「あれ? そうでしたっけ?」
「そうだ!!」
キョトン、と首を傾げるフロンに怒鳴るラハール。
「そんなことよりも罰ゲームです! ラハールさん、心の準備はいいですか!!?」
「なっ?! お、おい!!?」
一度暴走をし始めたフロンは、いかるなる者でさえ止めることはできず―――。そして――――――

「私がラハールさんに求める罰ゲームは―――」



「エッ、エトナ!!」
「あれ〜? 殿下じゃないですかー。もうゲームは終わったんですか?」
「うっ、うむ・・・。そっ、それよりもだな・・・その・・・」
「? どうしたんですか?」
ラハール、フロンと別れたエトナはその後行くあてもなくぶらぶらと適当に廊下を歩いた。そして数時間後、ゲームが終わったラハールに声をかけられたのだった。
だが、何やら様子がおかしいラハールに戸惑うエトナ。
「おっ、お前に話がある!!」
「話? 話ってなんですか?」
首を傾げるエトナ。何やらラハールの様子が変だ。
「・・・それ・・・は・・・」
「??? 殿下ー早くしてくださいよー。あたしは暇じゃないんですってば」
いつもと違い、言葉を濁すラハールを不思議に思いながらエトナはさっさと話せというオーラをだし、一応待っている・・・のだが・・・
「・・・オレ様・・・は・・・」
「殿下が?」
「・・・・・・・・・」
先ほどと同様に、言葉を濁すラハール。気のせいか、顔が赤くなってきている。そしてそんなラハールについにエトナは―――
「・・・殿下〜。仮にも魔王だっていうのならはっきりと言わないとナメられますよ? 話がないんだったらあたしはこれで失礼しますね〜。あー忙しい忙しいー」
「! まっ、待て! エトナ!!」
「それじゃ」
最後に皮肉をたっぷりと言い放ったエトナは、後ろを向いてラハールとの会話を強制終了させようとした―――が、その時――――――


「オレ様はお前が好きだッ!!」


言葉を濁していたラハールの口からついに―――それも思ってもみなかった言葉が飛び出したのだった――――――。



「は・・・?」
あまりの展開に、さっさとラハールと別れようとしていたエトナは思わず振り向き、自分より背が低いラハールの顔を凝視した。

―――そこには顔を真っ赤に染め上げたラハールの表情が―――。

「オッ、オレ様が先ほどから言いたかったことはこれだ! どうだ! 言ってやったぞ!!」
何故か踏ん反りかえるラハール。真っ赤な顔でそんなことをしてもまったく意味がないということに気がつかないまま―――。
「・・・・・・・・・」
「これでお前もオレ様のことを見直したか? ハーハッハッハ・・・」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
そしてラハールの衝撃告白からずっと呆気にとられたままのエトナ。ラハールもラハールで、これ以降の台詞が思い浮かばずに黙りこくってしまう始末である。だがラハールにこの微妙な空気が耐えられるはずもなく―――
「っ・・・! おいエトナ! なんとか言ったらどうだ!! このオレ様がお前に正直な気持ちを―――」
相変わらず顔が赤いまま、ヤケクソまじりに叫ぶ。この言葉を聞いたエトナはついに―――

「プッ・・・アハッ・・・・アハハハハ!」

笑い始めてしまった。しかも腹を抱えるほどの爆笑っぷりである。

「なっ・・・?!」
これにはさすがのラハールも度肝を抜かれてしまう。
「何がそんなにおかしい!! お前、オレ様をバカにするのもいい加減に―――」
先ほどの恥ずかしさからくる赤面に、怒りの赤面を加えてエトナに問いただすラハール。何せ、一世一代の告白をしたのだから――――――。
そしてこれを見たエトナは、さすがにヤバイと思ったのか―――ゆっくりと、笑っていたその口から言葉を発した。

「えーっと・・・殿下、それって一昨年の“仕返し”ですか?」

それは―――いきなりエトナが笑い始めた時と同じぐらい、驚くべき台詞だった―――。



「仕返し・・・だと?」
「はい。だって今日はエイプリルフールですよ?」
「エイプリル―――・・・・!」
「あっ、その顔だと思い出したみたいですね〜。一昨年あたしのウソにまんまと騙された殿下は仕返しをするためにさっきのウソの告白をしたんですよね?」
「そっ、それは―――」
「あー・・・別に隠さなくてもいいですよー。あたしも一瞬だけ本気で驚いちゃいましたし。そうなると殿下の仕返しは成功したってことですよねー」
慌てふためくラハールに目もくれず、スラスラと自分の意見を述べるエトナ。
「いやー、今回は殿下に一本とられちゃいましたよー。あー・・・。こうなったらもっとうまいウソを考えとかないとなー・・・」
「まっ、まてエトナ! さっきのはウソではな―――」
「殿下ー。もう種も仕掛けもわかったんですから無理はしなくてもいいですよー。それとももしかして・・・本気の本気の本当にマジな告白だったんですか?」
ニヤリ・・・と笑うエトナ。完璧にラハールで遊んでいるパターンである。
「っ・・・!! そんなバカなことがあるかッ!! たまにはくだらん行事に参加してやろうと思って言ってやったのだ! 本気な訳がない!!」
エトナの不敵な笑みを見たラハールは、ヤケクソでエトナの言葉を肯定したのだった。
「ですよねぇ〜。というかそもそも殿下にそんな勇気があるとは思えませんし」
「なにぃ!!?」
「なのでいつか勇気を振り絞った瞬間を見せてくださいね〜。まぁ・・・何千年後とかだと思いますけど。ではあたしはこの辺で失礼しますね〜。それじゃ」
ラハールの怒りが降り注ぐ前に、そそくさとエトナはラハールと別れたのだった―――。



「エトナさんエトナさん!! ラハールさんから何か言われませんでした!?」
「んー・・・別に?」
「そんなわけありません! 絶対何か言われたはずです!!」
「・・・フロンちゃん、アンタさー・・・あたしを疑ってるわけ?」
「そっ、そんなことありませんけど・・・!」
「んじゃあこの話はおしまいおしまい。あたしは眠いから寝るわ。おやすみ〜」
「あっ! エトナさんちょっと!!」
ラハールと別れたエトナは自室に戻った。が、丁度それを待っていたかのごとくフロンが乱入してきたのだ。しかもすごく好奇心に満ちた表情で。しかしそれをかる〜く受け流したエトナは、フロンを部屋から追い出したあとゴロン・・・と寝転び、
「・・・・・・な〜るほどねぇ〜・・・。殿下が急にあんなことを言い出したはフロンちゃんが原因かー」
クスッ・・・と苦笑するエトナ。何やら先ほどの必死なラハールの姿を思い出したらしい。
「おおかたゲームに負けて罰ゲームってことでフロンちゃんに言われてやったんだろうけど・・・あんな見え透いたウソでくるとはねぇ〜・・・」
ニヤニヤと笑うエトナだったが、そこでふと、あることを思った。
「・・・ん? でも一昨年殿下があたしに騙されたってことはあたしと殿下以外知らないはずで・・・あんだけ恥をかいたできごとを殿下がフロンちゃんに言うはずないし・・・。それにいくらフロンちゃんが堕天使だからってウソをつくことを推奨させるとは思えない・・・・・・」

エトナは考え始める―――。

先ほどは信じられない展開の数々で冷静に回らなかった脳を回転させて―――。

「ん〜・・・それじゃあさっきの殿下の告白って・・・もしかして―――」

そして―――1つの答えに辿り着いたエトナは――――――


「・・・・・・まさか・・・ね・・・」


どこか嬉しそうにポツリ――と呟き、本当に寝るつもりで目をつぶったのだった――――――。




−あとがき−
・・・という名の解説コーナー(
微妙に08年版エイプリルフールネタの続きです(苦笑
考えてみれば去年書いてなかったんだなー・・・
なんか別CPでもいいから書いとくべきだったか・・・!(汗
実はこれ、今年のバレンタインの時期に思い浮かんだ内容でして・・・!
2月に4月のネタが生まれるってどーよ自分・・・!と思いながらやっと書けました(笑
そして何故人生ゲームなのかというツッコミはなしの方向で・・・( v *)
自分でもよくわからないんだ・・・ッ!(
あっ、フロンがラハールに課した罰ゲームはタイトルの通り告白ってことで...。
多分なんか、
「エトナさんにラハールさんの気持ちを伝えてください!」
とかなんかそんなんで・・・(なげやりな
っていうかこれってそもそも、『罰ゲームで告白しましたー』な展開でもいけるってわけで・・・別にウソってことにしなくてもよかったんじゃあ・・・?(゜v゜;)?




2010/03/30(管理人引越し準備のため少し早めの更新)