恋する思い



「なぁなぁアンタ、ちょっといいかい?」
ラブベリルは廊下を歩いていたフロンに声をかけた。隣にはエトナがいる。ラハールはめずらしいことにいない。
「あっ、ベリルさん。なんでしょうか?」
自分を見上げてくるラズベリルにフロンはニッコリと笑って挨拶をした。そして今度はフロンがラズベリルに尋ねた。それを聞いてラズベリルは、
「アンタ元は天使だったんだってね。それって本当かい?」
興味津々の顔でフロンに質問した。
「はい。そのとおりですよ」
フロンは気にした様子もなく答えた。が、それまで隣で2人の会話を聞いていたエトナがふと、
「悪に染まりやすい天使だったけどね〜」
「そっ、そんなことないです!!」
昔のことを思い出しニヤニヤと笑いながらフロンをからかった。もちろんそれを否定するフロン。
「悪に染まりやすい? それってどういうことだい?」
「それはねぇ・・・フロンちゃん、証拠いんめ――」
「わぁわぁ! エトナさん! それ以上言ってはいけません!!」
「ちょ、ちょっとフロンちゃ――むぐっ!?」
何も知らないラズベリルにエトナは楽しそうに昔のフロンのことを話そうとした。――が、それに気がついたフロンはすばやくエトナの口を自分の手で塞いだ。
「わっ、私のことよりもベリルさん、天使がどうかしたんですか?」
フロンが冷静を偽ってラズベリルに質問する。
「あっ、ああ・・・。アタイの質問の前に手、放した方がいいんじゃないのかい? さっきから苦しそうだけど・・・」
「あっ・・・」
フロンはラズベリルに言われて今始めて知ったかのように自分の手がある場所を見た。そこには自分の手で口を押さえられ、もがき苦しんでいるエトナの姿が・・・。
「すすす、すみませんエトナさん! 私ったらつい・・・!」
「つい・・・じゃないわよ! アンタ、あたしを殺す気!?」
「ごっ、ごめんなさい〜・・・」
素直に謝るフロンを見てエトナは心の中で、
(前みたいに真実を隠そうとするわ、殺人未遂をするわ・・・やっぱり染まってるわね・・・)
と、改めて思ったのだった―――。



「それで本題なんだけどさ・・・天使も恋ってのをするのかい?」
「恋・・・ですか?」
「あぁ」
頬を薄く染めたラズベリルは恐る恐るフロンに質問した。
「不良たるもの恋の1つや2つ知っとかなきゃいけないと思ってね。具体的にどういう気持ちになったりするのが恋なのか・・・を」
真剣な表情でフロンを見るラズベリル。そしてそんなラズベリルを見てフロンは瞳を輝かせ、
「すばらしいですベリルさん!!」
大声で叫び、ラズベリルの手を握ったのだった。
「やっぱ悪魔にも愛はあるんですね! 愛を知ろうとする心・・・なんてすばらしいことでしょう! 私、信じていてよかったです!」
1人で感嘆の声をあげて喜び、1人で騒ぐフロン。お馴染みの光景だ。そしてそれを、
「あーあ・・・まーた始まったよ・・・」
あきれた目線でフロンを見るエトナ。こちらもすっかりお馴染みの光景である。
「いつもあんな感じなのかい?」
そしてエトナとフロンの様子を見てラズベリルが不思議に思い、今度はエトナに質問をした。
「まぁね〜・・・。それよりもさ、なんでまたいきなりそんな話をフロンちゃんにしたのよ?」
エトナはラズベリルの質問を簡潔に答えた。――自分の疑問と共に・・・。
「だっ、だからそれは不良である以上、恋というものを知っておかないと思ったからで・・・」
「違う違う。あたしが知りたいのは何で今更なのか・・・よ。急に知りたくなった理由でもあるわけ?」
ニヤリと不敵な笑みを見せ、ラズベリルを見るエトナ。実に楽しそうだ。
「たしかにそうですよね〜・・・ベリルさんなら恋というものをすでに知っているものだと思っていたんですけど・・・」
フロンもフロンでいつの間にかエトナとラズベリルの会話を聞いていたのか、首を傾げた。
「あ、アタイだって恋がなんなのかをある程度知っているつもりさ。だけど天使が恋したらアタイ達悪魔と同じような考えや感じ方を持つのか気になって・・・」
「ふ〜ん・・・それを聞いている限りじゃまるで・・・好きなヤツがいるけどどうしていいのかわからない。そうだ、慈愛の心に満ちた天使なら何かいい案があるしれない・・・。だから聞いてみよう。って言っているように聞こえるけど?」
「なっ・・・!!」
「えっ! そうなんですか!? ベリルさん、好きな人がいるんですか!!?」
「べっ、別にアタイは好きなヤツなんて・・・」
身を乗り出しラズベリルに迫るフロン。そしてばつが悪そうに目を逸らすラズベリル。この様子を見てさらにエトナは楽しそうに、
「あたしが推測するに・・・この学園にいる――」
ラズベリルを一瞬ちらっと見た。それを見たラズベリルは大慌てで、
「なっ、なんでアタイがマオのことを好きにならなきゃいけないのさ!」
否定した。が・・・、
「あっれ〜? あたしはただ『この学園に〜』としか言ってないけど? 誰が『マオだ』なんて言ったっけ?」
「しまっ・・・!」
自分がはめられたと気がつくラズベリル。そして勝ち誇った表情でラズベリルを見るエトナ。
「エトナさん、いくらなんでもイジワルしすぎですよ〜・・・」
そしてフロンははめられたラズベリルのことを心配する。
「いいのよこのくらい。悪魔は素直じゃないからこれぐらいしなきゃ本音なんて聞けやしないわよ」
が、そんなことはお構いなしといった様子でケラケラと笑い放つエトナ。
「んで、実際のところどうなのよ? アンタとマオの関係って」
「あっ、それは私も気になってました」
先ほどの心配はどこにいったのか、今度はフロンもエトナ同様ラズベリルに質問する。
「アタイとマオは・・・ただの幼馴染でライバルなだけさ。それ以上でもそれ以下でもないよ」
喜びや悲しみ、はたまたそれ以外の感情を含めた表情で自分とマオの関係について話したラズベリル。だが、エトナとフロンの2人組みはもちろんこの程度で納得するわけもなく、
「とかなんとか言っちゃって本当はつき合ってたりするんじゃないの〜?」
「なっ・・・!?」
「そうなんですか!? 悪魔同士のカップル・・・とても興味深いです!!」
「ちっ、ちが・・・!」
「白状しちゃいなさいよ〜♪ 話しちゃえば楽になれんだからさぁ〜」
「ベリルさん! 教えてください!! 悪魔のカップルってどんなことをするんですか!? やっぱり愛は存在してるんですよね!!?」
エトナは不敵な笑みを浮かべた顔で。フロンは好奇心に満ちた顔で、ラズベリルに迫る。
だが、2人の追求もむなしく、
「だからアタイとマオはそんな関係じゃないって! じゃ、じゃあアタイはボランティアの時間だからこの辺で失礼するよ! それじゃ!!」
ラズベリルは早口でしゃべり、そそくさと元きた道を戻っていったのだった。



「・・・うまい具合に逃げられちゃいましたね」
「ちっ・・・。もうちょっとだったのに」
苦笑するフロンと悪態をつくエトナ。
「でも・・・なんだかベリルさんが羨ましいです。やっぱ恋って素晴らしいです。ねっ、エトナさん?」
「そう? ただめんどくさいだけだと思うけどなー。ってなんであたしに聞くのよ?」
「それはエトナさんだっていつの日か誰かを好きになったりすると思うからですよー」
「はぁ? そんなわけないじゃない。さっ、バカな話は止めてさっさと凶室に戻るわよ」
「そうですか? あっ、まってくださいよエトナさーん!」
楽しそうに話しかけてきたフロンの言葉に適当に答え、エトナは凶室に向かって歩きだしたのだった―――。






−あとがき−
何このオチなし・・・(゜v゜;)
ディス3の後日談でラハール達が仲間になってしばらくたった後・・・の時間帯設定です。
少なからずもラズベリルはフロンにいろいろと愛のことを聞きまくっていたんだろうなぁ・・・と思い、だったらいっそのことラズ→マオにした方が書きやすいだろうなぁ・・・ の結果がコレです。
なんだかただの女の子同士の会話だけで終わってしまった・・・(^^;)
ではでは、読んでくださった方ありがとうございます。少しでもお楽しめたならば幸いでございます。





2008/10/25