「っ・・・!いくらかすり傷って言ってもやっぱり痛いもんだね・・・。」
「すっ、スミマセンお姉さま。包帯きつかったでしょうか?」
顔をしかめ、一瞬苦しそうな顔をしたラズベリル。
すぐ傍に明日禍がいて、ラズベリルの手に包帯を巻いている最中だった。
「大丈夫だよ明日禍。そのまま巻いてくれれば助かるよ。」
ラズベリルは、明日禍を安心させるためにニコッと微笑んだ。
「・・・やっぱりお姉さま、保嫌室に行った方が・・・。」
明日禍に代わり、心配するのは二人の様子を見ていた狂子。
二人は心配そうにラズベリルの顔を見た。
「かすり傷なんだ。こんなことでいちいち保嫌室なんて行ってたら迷惑だろ?狂子。」
「でっ・・・ですが・・・」
「念のためにやはり保嫌室に・・・」
口ごもる狂子に、再び心配な顔でラズベリルをみる明日禍。
しかし、ラズベリルは先ほどから言っているように、
「本当にただのかすり傷なんだからさ、心配いらないさ。」
明日禍が包帯を巻いてくれた手をみて苦笑する。
「・・・それよりも・・・アタイが気になるのは・・・・・・」
苦笑していた表情が、ふと切なそうな表情に変わり、自分の手を見つめたラズベリルだった―――。



一緒に生きよう



事件は数時間前に起きた。

いつもどうり、自ら強くなるべく魔物達と戦っていたマオ達。
そんな中、一瞬気を抜いていたラズベリルを見のがさまいと魔物が攻撃をし、ダメージを受けたラズベリル。
駆けつけたマオ達のおかげで、幸いにもかすり傷程度ですんだ。
が、安堵もつかのま、マオがラズベリルに――――――









「・・・なにも『役立たず』って言わなくてもいいじゃないか・・・。」
ふぅ・・・。とため息をもらすラズベリル。その表情は悲しそうだった。
「お姉さま、お気を落とさないでください。」
「そうですわよお姉様!マオさんだってきっと本心では思っておりませんわ!」
落ち込むラズベリルを元気づける明日禍と狂子。
「・・・たとえマオが本心で言ってなくても、アタイが足手まといだってのは変わらないだろ?アタイはみんなの力になりたいってのに・・・」
二人がかけた言葉もむなしく、落ち込んだままのラズベリルであった。



「これは・・・大問題ですわ。」
ラズベリルの様子を見ていられなくなった明日禍と狂子はそっとラズベリルから離れた。
そして、二人は今後のことについて考え始めた。
「いつも強気なお姉さまが、あそこまで落ち込むなんて・・・。よほどマオさんに言われたことがショックだったのでしょうか・・・?」
「マオさんとお姉さまは幼馴染。ワタクシ達が口を挟むような問題ではないのでしょうけれど・・・でもやっぱりお姉さまのことが心配ですわ!」
「ワタクシも同感ですわ狂子さん!ワタクシ達の力でお姉さまを元気づけましょう!」

二人は一揆団結し、マオのところに向かうのだった。



「・・・・・・」
戦闘終了後、一人で学園の中を歩いていたマオ。
考え事をしているようで、その表情はどこか遠くを見つめているようだった。
そんなマオの元に、声をかけてきた二人組みがいた。

「マオさん!ちょっとよろしいですか!?」
「何がなんでも立ち止まってもらいますわよ!!」

それはもちろん明日禍と狂子。二人ともラズベリルのために必死な表情だった。

「・・・なんだお前らか。我に何の用だ?」
「率直に言いますわマオさん。今すぐお姉さまに謝ってください。」
「何っ・・・!?」
いくら考え事をしていたマオでも、二人の言葉に驚き、凝視した。
「聞こえませんでしたこと?お姉さまに謝って――」
「それだ!なぜ我がベリルに謝ればならん!」
狂子が先ほどと同じ言葉をマオに言おうとしたが、マオは狂子の言葉をさえぎり叫んだ。
しかし、明日禍と狂子はマオにひるまず、
「お姉さまは先ほどの戦闘でマオさんに言われてことを気にしていますのよ!」
「マオさんが謝るのは当然じゃありませんこと!?」
マオに攻め寄る明日禍と狂子。
「ぐっ・・・!わっ、我は本当のことを言ったまでだ!ベリルがあんなザコ相手にダメージを受ける方が悪い!」
いつもより強気で強引な二人に驚き、慌てるマオだったが最後はやはりムリヤリ理由を述べた。
「そんなことはありませんわ!マオさんだって自分が言った言葉に後悔しているはず!」
今度は明日禍がマオに叫んだ。
「後悔などしていない!我は本心を言ったまで!他人にどうこう言われる筋合いはない!!」
強気で叫び、マオはそのままUターンをし、二人の前から立ち去ろうとした。
「マオさん!お願いですわ!お姉さまに・・・!」
「このままでいいんですの・・・!?」
後ろを振り向かずに、歩き続けるマオに声をかける明日禍と狂子。しかし、マオからの返事はなかった―――。



(ベリルが落ち込んでいるだと?その原因は我にあるだと?)
再び学園の中を歩くマオ。再び考え事をしているが、二人に出会う前の様子と違い、あせりと戸惑いに満ちていた。
(我が思っている以上に、我の言葉がベリルを傷つけたというのか・・・?)
歩くのをやめ、下を向くマオ。頭に思い浮かぶのは、数時間前の自分とラズベリルの会話のことばかりだった。
(我はただ―――ベリルが・・・・・・)
そして今度は、なぜ自分がラズベリルのあんなことを言ってしまったのかを考えた。
(・・・!いっ、いま我は何を・・・何を考えていた!?我はベリルのことを思ってなど―――!)
しかし、でてきた答えに驚き、慌てて否定をするマオ。

しばらく一人で考え歩いていたマオは、いつのまにか自分が保嫌室前にいることに気がついた。
「保嫌室・・・か。」
歩くのをやめ、立ち止まるマオ。
と、そこに・・・・

「・・・二人には心配かけたくなかったからあんなこと言っちまったけど・・・この傷・・・やっぱり先生に診てもらった方がいいかもしれないね・・・。」

今、一番マオにとって会いたいような会いたくないような存在、ラズベリルが保嫌室の前に現れたのだった。



「ベリル・・・」
「まっ、マオ・・・・・・」

マオとラズベリルは互いの存在に気がつき、それぞれ小声で相手の名前を呟いた。
「・・・・・・あの時の傷、ここに来る程重症なのか?」
「えっ・・・?あっ・・・あぁ。応急処置は明日禍にやってもらったんだけど、やっぱちょっと気になってね。」
「そうか・・・」

「・・・・・・」
「・・・・・・」

二人の間に沈黙が流れた。



「マオ・・・アタイはアンタにとって役立たずな存在なのかい?」
「・・・・・・!」
沈黙の後にラズベリルから放たれた声は、いつもの元気がある声ではなく静かで落ち着いたラズベリルの声だった。その声に虚をつかれるマオ。
そんなラズベリルの様子に、何かが締め付けられるマオ。
「あっ、あの時・・・我が言った言葉は別にお前が必要だとか必要ではないなどの意味ではない・・・!」
そして顔を赤らめてラズベリルに本当の意味を伝えようとする。
「え・・・。いったいどういう意味・・・だい?」
マオ同様、虚をつかれ驚くラズベリル。マオに真意を聞こうとするが、肝心のマオは、
「そっ、そのくらい自分で考えろ!我は知らん!!」
ぶっきらぼうに話を無理矢理終わらせようとした。
「んなっ・・・?!そんなんじゃわかんないだろ!!?そこまで言ったんだ!最後まで言うのが筋ってもんじゃないか!!」
「えぇい!黙れ!そんなもの我の勝手だ!」
「なっ、なにぃ!!?アンタねぇ、いい加減その素直じゃないところを直さないと、いくらアタイだって――」
マオの言葉に反論し、自分の思いを伝えようとしたラズベリルだったが、
「アンタの言葉にきず――・・・・・・あっ・・・あれ?」
「おっ、おいベリル?!!」
いきなり訪れた眩暈に真っ直ぐ立てずに、マオに寄りかかる形で倒れこんだラズベリル。もちろん、双方ともに驚く。
「いっ、いきなりなんだお前は!いったい我に何の恨みがあって・・・!」
突然のできごとにどうしていいのかわからないマオ。さっきよりも頬が赤く染まる。
なんせ自分の腕の中には、ついさっきまで仲たがいしていた幼馴染でライバルであるラズベリルがいるのだ。
「アタイ・・・だってよくわからないんだよ・・・!ただ・・・さっきから手の傷が痛んで眩暈が・・・」
顔をしかめ、苦しむラズベリル。
「傷・・・?まさか・・・!」
ラズベリルの言葉に何か思い当たることがあるのかマオは、自分の腕の中で苦しむラズベリルを抱えると、目の前にある保嫌室に駆け込んだのだった―――。



「毒・・・?アタイが倒れたのは毒だってのかい?」
「あぁ。おそらく傷口から毒でもはいったのだろうな。」
「そっか・・・。」
ラズベリルが倒れた後、マオは保嫌室の先生にラズベリルを診てもらい、傷口をあらためて治療してもらった。そして保嫌室のベッドに運ばれたのだ。
「だから我は言ったのだ。こんなことがないよう我はお前に・・・」
ぶつぶつと文句を言うマオだったが、ラズベリルはその台詞を聞いて、
「マオ・・・アンタもしかしてアタイが二度と傷つくのが嫌で、アタイを戦いから離れさせるためにあんなことを言ったのかい・・・?」
「・・・っ・・・!ちっ、違う!!我は断じてそんな意味があってお前に役立たずなどと言ったわけでは・・・!!」
自分で墓穴をほったあげく図星をつかれため、頬を染めて否定するマオ。
「・・・バカだねぇアンタは。そんなこと言ってアタイがアンタから離れるとでも思ってたのかい?」
「なっ・・・!お前、魔王である我に向かって何を・・・!」
「あぁ。バカだよ。大バカ魔王だよ。」
「なっ、なにぃ!?聞いていれば言いたい放題言いやがって・・・!」
「だってそうだろ?アタイとアンタはもう切っても切れない縁。絆さ。」
微笑むラズベリル。
「・・・・・・・・・ふん。」
そんなラズベリルにこれ以上何を言えばいいのかわからなくなったマオは、照れくさそうにそっぽを向くのであった―――――。






後日。



「もっ、もう一度言ってみなマオ!なんでアタイがザコなんだい!!?」
「あぁ!何度でも言ってやる!あんなザコ一匹倒せないやつはザコだと言っている!!」
「そういうアンタこそ、さっきの敵に苦戦してたじゃないか!ザコはアンタも一緒だよ!!」
「なんだと・・・!?言ってくれるなこの不良めが!!」

「・・・良かった・・・。お姉さまとマオさん、無事仲直りできましたのね。」
「そのようですわね♪やっぱり二人はあぁでなきゃ。」

いつもどおりに戻った二人の様子を見守る明日禍と狂子。
その表情はとても嬉しそうだった。




−あとがき−
これ、お題にあって・・・?まっ、まいっか!(待)
ってことで、共に生きる5題のNo.05でした。
最初書く時、ラハエトにすべきかマオラズにすべきか悩んだあげく、なんだかこの二人の方が合ってそうな気がしたのでマオラズに。
その結果、伝えたいことをうまく伝えられなかった・・・気が・・・!(汗)
とっ、とりあえず、どんなことがあっても一緒にいる=共に生きる と解釈してくだされば嬉しい限りです・・・!
後、最後の方は・・・あっ、あのくらいの甘さ・・・ならあり・・・ですかね?(ぉぃ)
その点に関して意見募集中です。どの辺まで皆様がOKなのかが知りたい・・・(・v´・)ゞ
個人的には、相手を引っ張るために手をつないだり、今回みたいな感じで寄りかかるってのは好きなのですよ(あ゛)
そんでもって明日禍と狂子の口調。あれでいいのかホント謎です(失笑(あ)
一人称が私なのかワタクシなのかでも悩みました。なんなんだよもう!(お前がなんだ)
ではでは、読んでくださった方ありがとうございます。少しでもお楽しめたならば幸いでございます。





2008/05/03