「マオさん! 至急ワタクシ達についてきてください!」
「こっちです! こっち!!」
「貴様らか・・・我にいったいなんのよ―――おっ、おい! 何をする!!」
廊下を歩いていたマオは、突如現れた明日禍と狂子に両腕をつかまれ、ズルズルと引きずられていく。
『ついてきて』というよりは、『つれていく』という光景だった―――。



哀訴嘆願



マオがつれられて行かれた場所は保嫌室だった。
そこにはいつもより顔を赤く染め、ゴホッゴホッとせきをするラズベリルがいた。
「おっ、お姉さま大丈夫ですか!?」
「・・・みてのとおりの風邪だよ。ほっといても治るさ」
「ですが悪化することも考えられますわ・・・。なのでお姉さま、せめてベッドで横になってください」
明日禍と狂子は2人揃ってラズベリルの顔を覗き込む。
「大丈夫だって。それにこれ以上アンタ達に迷惑をかけるわけにはいかないさ」
自分の体調を心から心配してくれる2人に笑ってみせるラズベリル。
「ワタクシ達のことなら気にしなくても大丈夫です。それに、こんなこともあろうかと助っ人を呼んできました」
「・・・助っ人?」
「はい」
楽しそうに、または嬉しそうにラズベリルに説明する明日禍。
そして―――・・・


「こっちですわ!」
「だから貴様らは何の恨みがあって我に―――むっ? ベリルか?」
「マオ!?」
明日禍が言う助っ人とは・・・狂子が腕を無理矢理引っ張り保嫌室に入室させたマオだった―――。



「な・・・なんでアンタがココに・・・」
驚愕するラズベリル。だがそれと同じくらい、
「それはこっちのセリフだ! 何故この2人に無理矢理連れられてきた場所にお前がいる!!」
マオは驚き、怒る。
「あっ・・・アタイは別に・・・」
そしてラズベリルはマオの質問に口ごもってしまう。
そんなラズベリルに代わり、明日禍がマオに、
「お姉さまはどうやら風邪をひいてしまったみたいです。自分は大丈夫だとおっしゃっているのですが・・・」
不安げな表情で説明をする。
「風邪・・・だと?」
マオはラズベリルを見る。そこには頬が熱っている自分の幼馴染の顔が・・・。
「本当にたいしたことじゃないよ。マオ、アンタも心配しなくていからさ」
「だっ、だれが心配などするか!!」
苦笑しながらマオに話しかけたラズベリル。そしてラズベリルの言葉を慌てて否定するマオ。
「それでマオさん・・・ものは相談なのですが・・・」
だが明日禍はマオの反応を知ってか知らずか、マオに話しかける。
「相談・・・だと? 我をこんな場所に連れてきたあげく、まだ我に用があるのか?」
「そのことに関しては素直に謝りますわ。ですが無理矢理にでも連れてこないときっとマオさんはきてくださらなかったでしょうし・・・」
「あたりまえだ。何の得があってこのような場所にくる」
明日禍の言葉に偉そうに答えるマオ。だが・・・、
「ですがきてしまったら話は別だと思います。なのでマオさん、ワタクシ達の代わりにお姉さまの看病をしていただけないでしょうか?」
「なっ・・・!?」
思ってもみなかったことを言われ、驚く羽目となった。
「何故我が看病など・・・! 貴様らがやればいいだろうが!」
そして雲行きが怪しくなってきたのか、あせり始めるマオ。
「残念ながらワタクシ達はお姉さまのたまに風邪薬や栄養のつく食べ物を買ってこなければならないので、看病はできないのです。なのでマオさん・・・」
明日禍は途中で喋るのを止め、

「お願いしますね」
「お願いしますわ」

狂子と声を揃え、そそくさと保嫌室から出たのだった―――。



「おっ、おいベリル! あの2人の横暴な態度はなんだ!? 不良がアレでいいのか!!?」
「アタイが知るわけないだろう? というか優等生のアンタが不良について語るとはねぇ・・・」
「!! うっ、うるさい! とにかく我はお前の看病などしないからな!」
マオはラズベリルに苦笑されたのが恥ずかしかったのか、ドカッ! と音をたてて椅子に腰掛けた。


「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」


一体何分、何十分沈黙の時間が続いただろうか・・・?
ラズベリルはベッドで横になっている。
そしてマオは相変わらず不機嫌な顔で椅子に座っている。
この気まずい雰囲気は果たしていつまで続くのか・・・と感じさせる空気だった。が、ついに数分後、ラズベリルが沈黙を破った。
「・・・なぁ・・・マオ。悪いんだけどさ・・・そこの棚の中に入っている体温計を取ってくれないかい?」
その声は普段のラズベリルが発する元気な声色とは違い元気がなく、鼻声だった。
「・・・ふんっ。これでいいのか?」
マオはラズベリルの願いを受け入れ、近くにあった棚から体温計を取り出し、ラズベリルに渡した。
ラズベリルは、マオの素直な反応をみて、
「・・・アタイの看病はしないんじゃなかったのかい?」
意地悪そうな笑みを浮かべた。更には、
「っ・・・! きっ、気が変わったのだ! 気が!」
「ふぅん・・・?」
顔を染めて反論するマオを見てますます、楽しそうな笑みを見せるラズベリル。
「ぐっ・・・! いっ、いいから病人は大人しく寝ていろ!!」
マオは自分に分が悪いと思ったのか、大声でラズベリルに叫んだ。
「そもそも健康に気を使っているだろう不良が風邪とはな・・・」
そして話題を変えようとしたのか、話は自然と風邪のことに。
「早寝早起きだの手洗いうがいだの言っていた張本人がこの有様では不良も大したことがないな」
・・・・・・てっきりマオはいつもどおりラズベリルが何かを言ってくるのかと思っていた。
何せ不良や優等生のことについてよく口論しあう2人だからだ。
だが、マオの予想は大きくはずれ―――・・・、
「・・・アンタの言うとおりだよ。風邪をひいてしまうどころか、明日禍と狂子の2人に心配させちまったし・・・。それにマオ、アンタにも迷惑をかけちまったしね。・・・・・・ありがとよ」
「なっ・・・!!?」
ラズベリルは口論するどころか、否定もせずマオにお礼を言ったのだ。
もちろんマオは驚愕し、あぜんとなる。
「・・・・・・・・・ホントはさ・・・アンタがきてくれて嬉しかったんだよ。だからさっきアタイの頼みを聞いてくれた時はとっても・・・・・・ってマオ? 何さっきから黙りこくってんだい?」
ラズベリルのセリフを聞いて固まっていたマオ。
そしてその様子がおかしかったのか、キョトンとして顔でマオに問いかけるラズベリル。
「・・・・・・いや・・・なんでもない。気にするな」
「気にするなって・・・余計に気になるじゃないか。言いたいことははっきりと言わないと体に悪いぜ?」
言葉をにごす自分の幼馴染に、ラズベリルは苦笑した。そしてちゃんと言うようにうながす。
これ見たマオは、言うことを決意したらしく、
「・・・・・・・・・ただ今日のお前はヤケに素直だと思っただけだ。不気味な程にな」
―――頬を染め、どこか照れくさそうに言った。
「そうかい? アタイはいつも素直だけど? どこかの誰かさんと違ってさ」
マオの言葉に苦笑しながらラズベリルは答えた。意味ありげな言葉と共に―――。
「・・・? その誰かさんとは一体誰のことだ?」
マオはその意味ありげな言葉に疑問符を浮かべる。
「・・・さぁ? 誰だろうねぇ?」
「えぇい!! はっきりしろ!」
とぼけるラズベリルに怒るマオ。
「まぁまぁ落ち着けって。アタイが言う素直じゃない誰かさんってのは・・・・・・・・・なんだかんだ言いながらも幼馴染の看病をしてくれるヤツのことさ」
「!!?」
「しかもさー、そいつがいつもと違って妙に優しかったから嬉しくってアタイ、調子狂っちゃってさ・・・。アタイまで普段と違う態度になっちまったんだよね」
チラッ、とラズベリルはマオを見た。
「・・・・・・・・・」
マオはそっぽをむいて黙ってラズベリルの話を聞いている。気のせいか、顔が赤い。
「・・・マオ、アンタのことだよ? わかってる?」
そしてラズベリルは楽しそうにマオに言った。
「うっ、うるさい!! そんなこと知るか!」
「とにかくさ、さっき言ったようにアタイはアンタに感謝してるし嬉しかったんだよ」
「っ・・・!!」
必死で知らないフリををするも、微笑んでくるラズベリルを見て赤面し、何も言えなくなってしまうマオ。
「こんなふうに思うんだったらまた風邪をひいてみてもいいかもしれないね・・・」
「ばっ、バカなこととを言う暇があるなら大人しく寝ていろ!! 我はあの2人が近くにいないかどうか見てくる!」
「あっ、おいマオ・・・」
マオは早口で答え、ラズベリルの言葉が言い終わらないうちに保嫌室から出て行った。
―――顔を赤く染めながら――――――・・・。




〜数日後〜




「マオー。いるかーい?」
ラズベリルがマオの部屋に訪れた。その声は元気いっぱいだ。
「おーい? マオー?」
しかし、マオは部屋の中にいなかった。そのため、シーンとしていてラズベリルの声だけが響く。
「・・・・・・? こんな時間から留守なのはなんか変だねぇ・・・?」
ラズベリルは不審に思い、マオの部屋の中に入った。なんせ今は朝の7時である。
規則正しく生活をする不良のラズベリルならともかく、普通の悪魔達は平日・休日関係なく寝通ししているのだ。
留守という可能性もあったが、こんな朝早い時刻に出かけている方がマオにとっては不自然な気がするよな。と、ラズベリルは思った。
なのでラズベリルはマオが寝ているのかどうかを調べるため部屋の中に入った。
―――もしかしたらマオに、「不良のくせに不法侵入か!」と言われそうな光景だったが。



「・・・やっぱここにいたんだね。マオ」
「・・・ベリル・・・か?」
マオの部屋に入ったラズベリルは、真っ先にマオの寝床に向かった。案の定、そこには横たわっているマオの姿が。
「アンタに用があったんだけど、呼んでも返事がなかったから部屋の中に入ったんだよ。相変わらず遅寝遅起きかい?」
「・・・うる・・・さいっ」
自分をからかってくるラズベリルに無愛想に答えるマオ。
「・・・相変わらずだねぇ・・・。でもさマオ、なんかアンタ元気がない気がするんだけどアタイの気のせいかい?」
ラズベリルはマオの態度にいつものような覇気が感じられず、首を傾げて心配する、
「気のせいだ。気のせ・・・コホッコホッ・・・」
「・・・せき・・・?」
「ちっ、ちがうぞ! いっ、今のは・・・!」
「マオ・・・アンタ・・・」
必死でせきをしたことを隠そうとするマオに対してラズベリルは怪訝に思い、マオの顔に手を近づけ―――、
「おっ・・・おい!!」
「・・・熱・・・がありそうだねぇ・・・」
「っ・・・!!」
熱をはかるため、自分とマオの額に手を当てた。
もちろんそれにどう反応していいかわからず、うろたえるマオ。
「ん〜・・・アタイの風邪が治ったから改めてお礼を言おうと思ってアンタに会いにきたんだけど・・・どうやらアタイの風邪がうつっちまったようだね・・・」
「そっ、そんなわけがあるか!」
考え込むラズベリルを見ているうちに、今現在自分が置かれている状況(=額に手)に気がつき慌ててラズベリルの手を払いのけるマオ。
「とにかくここはアタイに任せときな! こんなこともあろうかと授業で看病の仕方をバッチリ習っていたからさ!」
「まっ、待て! お前まさか・・・」
「アンタがアタイの看病をしてくれたんだ。ここはアタイが看病しても問題ないだろ?」
「そういう問題ではな―――」
「そうと決まれば善は急げだよ! マオ、覚悟しなっ!」
熱のためなのかはたまた照れているせいなのか、顔が赤いマオを尻目にラズベリルは張り切るのだった――――――。




−あとがき−
リクエストにて、『マオかベリルのどちらかが看病する話』ってことで書いてみました。
・・・看病じゃねぇえ・・・!!( ▽ ;;)
ただ会話だけで終わった次第でございます・・・orz
最初、ベリルの家で看病する予定だったのですが本編でベリルの家のこと語られてないよなー。と気がつき、急きょ保嫌室となりました。
・・・マオラズ書く際にあたってこれで二回目だよ・・・。保嫌室使ったの・・・!(失笑)
んで、これまたマオの部屋にベッドがあるかどうかなんてよーわかりませんです。ハイ(最低だコイツ)
なんだかんだで、一番書いてて楽しかったシーンは『額に手』です。
マンガとかでもよくあるシーンですが、萌えますよね(←
額と額でもよかったんですが・・・ねぇ?(何)
『顔が近い』ってネタはきっといつの日か・・・。うん。きっと・・・。・・・誰か書いてくれないかn(書けよ)
ところで、『風邪の時に素直になる』ってネタは実は自分と同じくオヤジ趣味思考のオフ友に相談した際に貰ったネタです(ちょ
そのオフ友、素直じゃないのでこれまたいい案をくれたものです。これぞまさに適材適所(なんか違う)
ではでは、読んでくださった方ありがとうございます。少しでもお楽しめたならば幸いでございます。





2009/02/25