「あっ、ヴァルバトーゼさん。ちょっとお願いがあるのですが・・・」
それは、天使長フロンの提案によってもたらされた出来事であった―――。



Declaration



いつもどおりにプリニー教育係としての仕事を終え、帰路の最中だったヴァルバトーゼはこの地獄では似合わない雰囲気と外見を持つ天使長フロンに話しかけられた。
天使長とプリニー教育係という立場があるせいなのか、指導者――あるいは“人の上に立つ者”という点で意外と話をするヴァルバトーゼとフロンであったが、フロンから頼みごとをされることをは珍しかった。しかもその頼みごとというのが―――

「これをアルティナに渡して欲しいだと?」
「はい♪ できれば今日中にお願いしたいのですが・・・」

それは、自分の顔が埋もれるくらい大きな花束をアルティナに渡して欲しいというものであった。
「別に構わないが・・・。何かの祝い事か?」
特にこれといって心当たりのないヴァルバトーゼは率直にフロンに問う。
「これはですね〜・・・、天界にいる天使の皆様からアルティナちゃんにお礼の花束なんですっ!」
「お礼だと?」
「えぇ。アルティナちゃんが人間の皆様を最後まで見捨てず、救ってくれたことによって天界では今、敬いエネルギーに満ち溢れているんです。そのお礼・・・ということです」
嬉しそうに話すフロン。花束の出所は天界に住む天使達からお礼の品であった。が、ヴァルバトーゼは腑に落ちなかったようで、
「・・・ふん。相変わらず天使の連中は現金なやつらだな。早々に人間を見捨て、自らは何もせず挙句の果てにはアルティナ一人に全てを背負わせたというのに――その礼が花束一つだとはな」
「ヴァルバトーゼさん・・・」
ヴァルバトーゼの言葉に、何も言い返せないフロン。そんなフロンの様子をみたヴァルバトーゼは、唯一アルティナを見放さず味方でいてくれたフロンに言うのは筋違いだと思ったのか、
「・・・まぁ・・・だからと言って渡さない理由にはならんからな。今日中に渡せばいいのだろう?」
「・・・ありがとうございます。ヴァルバトーゼさん」
すかさず話題を変えた。そして賛同をしてくれたヴァルバトーゼに微笑むフロン。が、そこでヴァルバトーゼは一つあることに気がついた。
「しかしただ渡すだけというのならば貴様がそのまま渡せば済む話ではないのか?」

そう――――――。

何故フロンがわざわざヴァルバトーゼに花束を渡すことを頼むか―――それが謎だった。
アルティナと同じく、地獄に残っているフロンはそれこそ毎日アルティナと顔を合わせているはずだった。ただでさえアルティナを溺愛しているフロンと、フロンを尊敬しているアルティナである。天界と地獄にいるというのならば話は別だが、同じ地獄にいる以上毎日顔を合わせないほうが不思議だった。
だがフロンは、ヴァルバトーゼの疑問に答える気がないらしく、
「むふふー。それを聞くのは野暮ってもんですよ? ヴァルバトーゼさん♪」
ニッコリ・・・またはニヤリと笑いながらフロンは腕に抱えていた花束をヴァルバトーゼに渡し、早々に立ち去っていった。
その様子をみて、ヴァルバトーゼは、
「・・・相変わらずできるやつなのか、できんやつなのかいまいちわからん天使長だな・・・」
ポツリと呟き、アルティナを探し歩き始めたのだった――――――。



「アルティナ」
「あら? 吸血鬼さんわたくしに何か・・・って、一体どうしたんですの? その花束・・・」
広場でアルティナを見つけたヴァルバトーゼは声をかけた。その声に反応し、振り向いたアルティナだったがヴァルバトーゼの抱えている大きな花束に真っ先に視線がいき、質問した。
「あぁ、これは天使長からお前に渡して欲しいと言われたのだ」
「天使長様が・・・ですか?」
呆気にとられるアルティナ。
「? 天使長からの贈り物はそれほどまでに意外だったか?」
アルティナの反応に小首を傾げるヴァルバトーゼ。憧れの天使長からの贈り物なのだ。徴収していた頃の金目の物を見つけた時のような反応をすると思っていたのだが―――
「あっ・・・いえ・・・そういうわけではないのですが・・・」
ヴァルバトーゼの問いに慌てて答えるアルティナ。
(・・・人間界や魔界、もしくは地獄にいる女性から吸血鬼さんに贈られ、それを運んでいる最中だと思って焦ってしまいましたわ。――なんて言えるわけありませんものね)
という気持ちを心にしまっておきながら、
「そっ、それよりも何故そのような立派な花束を天使長様が?」
うまいこと誤魔化しつつ、ヴァルバトーゼに聞く。
「人間界を救い、敬いエネルギーが増加したことについての天界にいる天使共からの礼だそうだ」
「まぁ・・・そうでしたの・・・。こんな立派な花束を・・・」
アルティナは嬉しそうに花束を受け取る。その表情は、大人びた顔立ちにも関わらず無邪気で繊細な可愛らしい笑顔だった。
「・・・・・・」
その笑顔に虚を突かれたヴァルバトーゼは何も言えなくなり、アルティナの顔を凝視してしまう。
「・・・? どうかしましたか吸血鬼さん? わたくしの顔に・・・なっ、何かかついてます?」
そしてアルティナは自分の顔をジッと見つめてくるヴァルバトーゼに照れ、どきまぎする。
「・・・いや・・・なに・・・その笑顔が俗に言うスマイル0ヘルだと思ってな」
まさか、見惚れていた―――と素直に・・・そして認めるわけにも言うわけにもいかないヴァルバトーゼはとっさに思いついたことを言う。
それを聞いた瞬間、アルティナの目つきが変わった。
「スマイル0ヘルですか・・・。それはおしいことをしましたわ・・・」
「・・・アルティナ?」
「敬いエネルギーが増加したこととは関係なく天界は今でも財政問題が表だってますし・・・。わたくしの笑顔一つが500ヘルだとして・・・。あとは・・・そうですわね・・・写真として売り出してもいいかもしれませんわね・・・そうなると・・・」
頭の中で自分の笑顔一つでどれほどの利益やその他もろもろが得するかをすばやく計算するアルティナ。ネモを救った今、お金の徴収は必要ないと思われていたが・・・どうやらそれは違ったようだ。
「・・・って・・・わっ、わたくしったらつい・・・!」
が、なんとかギリギリのところで気がつき、自分で自分の変貌ぶりに驚くアルティナ。
「あっ・・・あの・・・吸血鬼さん・・・気にしないでくださいね・・・? こ、これはおそらく職業病だと思いますわ・・・。なのでわたくしは断じてお金が好きなわけでは・・・」
そして慌てて否定する。すで遅しの気もするが、当のヴァルバトーゼは最初から気にしてなかったらしく、
「・・・・・・金が好きだろうが嫌いだろうが俺は別に気になどしない。お前はお前だアルティナ。自分のことよりも他人を優先し、吸血鬼に駆け引きを持ちかける変わったヤツだ。それは今でも変わらない・・・そうだろう?」
ニヤリ・・・と、アルティナをみるヴァルバトーゼ。その瞳に込められた想いは、信頼している相手にだからこそ向けられるものだった。
「・・・・・・吸血鬼さん・・・・・・ありがとうございます・・・」
ヴァルバトーゼの真っ直ぐな言葉に、ほんのりと頬染めアルティナは微笑んだ。その結果二人の間に妙な空気が流れるのだが、その空気に我慢ならなかったのかヴァルバトーゼは即座に話題を変えた。
「・・・それにしても、たかが花束一つでお前があのような笑顔になるとは驚いたな。やはり嬉しいものなのか?」
「そっ、そうですわね・・・。わたくしの場合、このような立派な花束を贈られることなんてなかったものですから・・・」
「むっ? そうなのか?」
意外だ――。とばかりのヴァルバトーゼは驚く。人間の頃から他人のために生きてきたようなアルティナからは想像もできない発言だった。だがそれには理由があった。アルティナは言いにくそうに口を閉ざしていたがやげてその重い口を開く。
「えぇ・・・。贈る贈られる以前に――“あの場”には花束を作れるほど多くの花は存在していませんでしたし・・・」
先ほどまでの明るい表情とは打って変わって、悲しげな顔つきになるアルティナ。

“あの場”―――
それはヴァルバトーゼとアルティナが出会い、失った場所―――戦場。
そこで看護師として働いていたアルティナが常日頃目にしていた光景は―――戦いの後・・・荒野。そのような場には花・・・それどころか草木が生えていればいいほうだと思われるくらいの場所だった。

「・・・・・・そうだな」
ヴァルバトーゼもその場のことを思い出し、頷く。
その後、重い空気がなんとなく流れたが、今度はアルティナが話題を変えた。
「・・・もしかしたら今後、花束を贈られる・・・という機会はないかもしれませんわね」
苦笑するアルティナ。だがヴァルバトーゼは、
「・・・いや・・・その可能性は――」
アルティナならば、それこそファンクラブとやらに参加している奴らから毎日贈られてきそうだな・・・と思ったがそれはそれで何故か癪に障り、両腕に抱える花束を見つめて呟くアルティナに対し意外なことを言った。
「ふん。ならば今度は俺が贈ってやろう」
「きゅっ、吸血鬼さんが・・・ですか?」
アルティナは、ヴァルバトーゼの発言に唖然となる。まさかあの暴君と呼ばれていた吸血鬼から『花束を贈る』なんて台詞がでるとは―――誰が予想できたことだろうか―――。
「なんだ? 嫌か?」
「嫌・・・とかそういうことではないのですが・・・。その・・・何故ですの・・・?」
首を傾げるアルティナ。天使達のように感謝の意味があるのならば花束を渡される理由にはなるのだが、自分はヴァルバトーゼに何もしていない。それゆえに何故ヴァルバトーゼが自分に花束を渡すと言ったのかが不思議だった。だがそんなアルティナの疑問は無意味なものになる。
「理由など特にない。俺がお前に花束を贈りたいと思い、宣言したまでだ」
それこそ開き直るかのごとく―――ヴァルバトーゼはそう言い放ったのだから・・・。
「・・・わたくし、時々吸血鬼さんが羨ましくなりますわ」
これを聞いたアルティナはヴァルバトーゼに敬意を表した。
「? 何故だ?」
「フフッ・・・。お気になさらないでください。わたくしが勝手に思っただけですので」
もちろんその意味がわからないヴァルバトーゼはアルティナに聞くが、質問をさらりとうまくかわすアルティナ。
「・・・? まぁいい。それで・・・どうだ? 俺も贈ると宣言した以上天使共よりも立派な花束を贈ってやるが?」
ヴァルバトーゼは疑問に思いながらも、チラリ・・・とアルティナを見て再び先ほどの話題に戻る。気のせいか、どことなく緊張しているかのようだった。
その様子が珍しかったのかアルティナはクスッと小さく笑い、
「・・・吸血鬼さんのせっかくのご好意・・・断るわけにはいきませんものね・・・」
ニッコリと笑い―――心の底から楽しみにし・・・
「その・・・楽しみにしていますわ」
再び・・・最高の笑顔で微笑んだ。
そしてその笑顔に応えるかのように―――

「あぁ・・・。楽しみにしているがいいっ!! 俺とお前の新たなる約束だ!」

ヴァルバトーゼは・・・声高らかに宣言し・・・約束した―――。



さて―――・・・ヴァルバトーゼがアルティナに花束を渡すのか否か―――


それはまた―――別のお話――――――。




−あとがき−
約1年ぶりの小説更新・・・です。
もう書かないだろうな〜・・・とか思ってたのですが新しいゲームをやるごとにネタは降り注いでくるもので・・・(苦笑)
ということで初のヴァルバトーゼ×アルティナ小説でした。
ヴァルバトーゼが歴代主人公の中で唯一キャラと口調がつかめんやつでして・・・
すごく書くのに時間がかかった・・・。この2人難しすぎる・・・!頑張って精進シマス・・・
あと自分が書くとどうしても男前なヴァルバトーゼが書けんのです...。
他の方の小説のヴァルのかっこよさといったら・・・!(><)
そして今回、“別のお話”という終わり方を初めて使ってみたのですが・・・
宣言どおり(?)におそらく花束云々の話は時間があったら書きたいです・・・ね(願望)
それとフロンがわざわざヴァルバトーゼに花束を渡すように頼んだことも小説としてちゃんと書きたいです・・・ね(やっぱり願望)
そういえばアルティナって地獄にいる間どこに住んでるのかな・・・
拠点が地獄なおかげで、今までみたいに城があるかどうか不明すぎてなかなか難しいものが・・・(苦笑)




2011/04/24